【本業を目指すなら原価の3倍は間違い】ハンドメイド作家の値段の決め方

2023年3月12日

ハンドメイド作家を10年近くやっている白井です。
現在は本業作家として、田舎でのんびり暮らしています。
今回は、10年の経験の中で行き着いた『値段の決め方』について書きたいと思います。

ハンドメイド作家を仕事にするなら、原価の3倍は間違い

巷では「ハンドメイド作品の適正価格は原価の3倍」なんて言われています。

『原価には材料費+作業時間(時給)+梱包代+送料+通信料+手数料などが含まれていて、×3をすると、適正価格が算出できます。』という話なのです。

私も、初心者作家の頃はこれにならって価格設定していました。

でも、あるとき気づいたのです。

適正価格ってハンドメイド作家一人ひとり違うんじゃない?ということに。

特に不可解に感じるのが、この計算には【差し当たってハンドメイド作品をつくり販売するための最低限の経費】しか含まれていないということ。

一生懸命育ててきたブランドとしての価値、作家として長年切磋琢磨してきた技術や経験の厚み、新作を開発したり、将来的にブランドとして拡大、成長していくための蓄えになるものなど、大切なことが全然考慮されていないのです。

例えば、

「アトリエをつくりたい」
「作品のクオリティを上げるために高価な機械を購入したい」
「新作をつくるために一ヶ月窯元に修行に出たい」

なんて思っても、原価×3倍を守っていれば、今月も作って売ることだけで精一杯。作品がよく売れていたとしても、金銭的にも時間的にも余裕なんて生まれません。

もちろん、『趣味で短期間ハンドメイド販売を楽しみたい』という方には、『原価の3倍』がちょうどいい場合もあるかもしれません。

でも、ハンドメイド作家をきちんと仕事にしたい、将来も長くハンドメイド作家を続けていきたいのなら、この価格設定から抜け出さなければいけないと私は考えています。

ハンドメイド作品の適正価格の付け方は一人一人異なる

そもそも価格設定というのは、マーケティングの世界でも明確な基準がないのだそうです。

その結果、多くの事業者が自分の感覚に頼って適当に値段を決めてしまう、、とプロの方が話されていました。(みんな同じなんだな、ホッ。)

ハンドメイドの世界だって明確な基準はないはずなのです。

ましてや、ハンドメイド作家は、一人一人まったく異なる作品を、異なるステージ、異なるブランディング、異なる考えと世界観と条件と工程で生み出しているので、そもそも一人一人の初期設定があまりにも違いすぎます。

一律に設定してしまおうなんて、ちょっと大雑把すぎるのでは?と思うのです。

【本業ハンドメイド作家の値段の付け方】適正価格の計算方法

では、実際にはどのように価格設定したらよいのかというと、私の場合はこのような方法で考えています。

『ハンドメイド作品の販売で得たい年収』÷『一年で無理なく作れる作品数×0.6』

例えば、ハンドメイドで年収240万円希望で、一年に作品を180個作れるとしたら、『240÷(180×0.6)』となります。計算すると、作品一点につき、平均2.2万円で販売すればよいということになります。


なぜ『×0.6』なのかというと、制作したものが完売することはそうそうないからです。

作った作品のうち、実際に売れる作品の割合を6割として計算しています。

つくったうち7割が売れるなら『×0.7』、半分なら『×0.5』としてください。

その価格設定は適正ですか?

上の計算はあくまで私の経験から編み出した方法なので、あなたが計算した結果があなたにとって適正かをチェックしてみましょう。

①制作する作品数に無理はないか?

寝るのも惜しんで常にフル回転で制作するつもりでいると、はじめのうちはいいですが、長い期間が経つとぱったり作れなくなってしまったりします。

自分や家族が体調を崩したり、予期せぬトラブルに見舞われたり、絶不調で新作が出せない場合なども想定して見積りましょう。

作家は、制作以外の時間の確保がとても大切。制作や発送にばかり追われてしまわないように注意したいものです。

 

②将来の発展のために十分か?

上でもお伝えした通り、

「アトリエをつくりたい」
「作品のクオリティを上げるために高価な機械を購入したい」
「新作をつくるために一ヶ月窯元に修行に出たい」
という目標を実現できるか?ということも大切です。

そのための蓄えが可能な価格設定であることを確認しておきましょう。

 

③その価格で販売するイメージをしてみる

先程計算したように、年収240万円必要で、年間180個しか作れないなら、1点2.2万円で販売することになります。

例えば、今あなたが作っているのが椅子だとします。
椅子1点につき、平均2.2万円で売らなければならないわけですが、現状では5千円で販売しているとします。

これをどうにか工夫して、平均2.2万円まで値上げしていくことになるわけです。

素材やデザインにこだわって一点物にするとか、ストーリーやコンセプトを付けるなど、その作家さんならではの方法で、他にはない特徴を付けてみるとして、イメージしてみましょう。

『自分がお客様だとしたら、どんな椅子なら2.2万円で買いたいと思うかな?』と考えます。

どう考えてもその椅子に2.2万円の価値が与えられないのなら、今作っている椅子で年収240万円を目指すのは難しいのかもしれません。

その場合は、いったん椅子から離れて、他の作品を検討してみるのもよいでしょう。

本業ハンドメイド作家を目指すなら安売りしない!

ハンドメイド作家を趣味ではなく、ちゃんとしたお仕事にしていきたいのなら、はじめから安売りしてはいけません。

友達や知り合いに対して安売りしてしまいそうになるなら、作家をやっていることをはじめから誰にも教えないことです。
もしくは、途中からブランド名を変えてでも、知り合いからは遠ざけるべき。

なぜなら、『安いから買う』『友達だから買う』という枠の中にいると、作家として成長できないからです。

また、作家自身が『安いから売れている』という気持ちを持ったままでは、作家をしっかりお仕事にして、継続していくことはなかなか難しいでしょう。

作家として成長し、長く生き残っていくために、『安いから売れてる』『安いから買う』のループからなるべく早く抜け出しましょう。

◎初心者作家さんにはお試し低価格ブランドがおすすめ。

ただ、もしあなたが駆け出しの作家さんで、作品にもまだ自信が持てないなら、無理をして高い価格をつける必要はありません。そんな方は、一度お試しブランドをつくってみるのはいかがでしょうか。
私が一番はじめにつくったのは低価格帯のブランドでした。
自分の作品がどの程度売れるのか、どんな作品なら売れるのか、低価格でもいいのでまずは試してみたい、という気持ちで始めました。
私自身、未経験から徐々に経験を積んでいくことで作家としての自信がついたので、初心者さんにはおすすめのやり方です。
本気のブランドをつくる前に、期間を決めて試してみるのも良いかもしれません。

 

価格設定は奥が深い

価格にはいろんな側面があり、人間の心理を左右するほど、とても奥が深いものです。

価格の付け方『松竹梅の法則』

価格の付け方の王道パターンとして、「松竹梅」があります。
価格の高いもの(松)、中程度のもの(竹)、比較的安価なもの(梅)、と作品価格を3段階に分けて設定すると、真ん中を選ぼうとする心理が働いて、(竹)が一番買われやすいと言われます。

これを応用して、一番売りたい商品を(竹)に設定します。

安い=不安の心理

さらに、価格を見ただけで、
【高いもの=質が良い、安いもの=何か欠点がありそう】
というイメージを持つことはありませんか?

私たちは、『安すぎるのは心配だから、真ん中の値段のにしようかな』と、同じ商品でもわざわざ少し値段の高いものを選んだり、『高いものにはちゃんとした理由があるに違いない』なんて思いがちです。

つまり、作家がよかれと思って安く販売しているつもりでも、お客様からは「それなりの商品だから安い」「安い=不安」と受けとめられている可能性もあるのです。

価格もブランディングの一部

また、価格そのものが作品イメージ(+ブランドイメージにも)に大きく影響します。

それだけでなく、価格によってお客様の層や反応も変化します。

実際に、私自身も今までに経験してきたことですが、低価帯のときは、気軽にご購入されるお客様が多く、ブランドや作品への関心、評価も低い傾向があると感じます。

一方で、高額の作品をご購入されるお客様は、ブランドの価値を認め、高い関心を持っていただけるので、作品を大切にしていただけますし、大変感謝していただくことが多い傾向です。

そんなことも考慮した上で、価格設定を行いましょう。

(値上げの考え方についてはこちら、実践についてはこちらの記事がおすすめ)

 

ハンドメイドを仕事にするなら、考え方をガラッと変えてみよう

ここで書いたのは、あくまでも10年近くハンドメイド作家として活動してきた私なりに導き出した価格設定の一つの方法です。

作家さん一人ひとりの考え方、作品の作り方などによって、価格設定の方法は異なって当然だと考えています。

『原価×3』のことは忘れてしまいましょう。(笑)

私自身も、作家を始めた頃は『原価×3』を基準にしてしばらくの間、迷走していましたが、本業作家を目指すうちに、だんだんと無理が出てきました。結構長い間、無理をしていたなと思います。

皆さんはそんなことがないよう、ぜひ一度『ハンドメイド作品の販売で得たい年収』÷『一年で無理なく作れる作品数×0.6』と計算してみてください。 そしてその価格設定があなたにとって適正かどうか、じっくり検討してみてください。

もししっくりいかなかったら、自分なりの意味のある価格設定を考え直してみてくださいね。

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